V フィラリア予防薬の個人輸入
海外からの個人輸入規制について


商品が税関で保留される理由と通関必要書類
正確なフィラリア予防知識をお持ちの飼い主さんであれば、フィラリア予防薬を海外から個人輸入することには大きなメリットがありますが、同時にクリアしなければならない法的規制もあります。
ここでは個人輸入をするときに出会うかもしれない通関時の規制について説明させていただきます。


フィラリア予防薬やノミダニ駆除薬を海外から個人輸入しようとすると、税関で製品を保留され、「農水省の薬事監査の承認をもらってください」と連絡の来ることがあります。
手続きとしては必要書類を作成して農水省本省に郵送し、農水省薬事監査担当部門から返送される書類(薬監証明)を受け取り、今度はそれを税関に提出する必要があります。
実際に個人輸入をしようとして連絡を受けた人しか分からないでしょうが、農水省の薬事監査の証明(薬監証明)を得るためには多くの書類が必要であり、それらを用意するのは個人には不可能です。
しかし、違法ではないからこそ、このような通関書類を要求されるわけであって、一部の動物病院が言うように「個人輸入が違法だから」ではありません。
通関できないのは「書類不備」にすぎません。
要求された書類を提出しないと輸入品は差出人のところに返送されます。(違法ではないので没収にはなりません。)
商品は郵送代を節約するために船便で返送されるので時間はかかりますが、遅かれ早かれとにかく発送人の海外業者に戻されます。
ですから、ほとんどの業者さんは顧客への商品が税関で保留されると代替品を送りなおしてくれますので、購入者は煩雑な通関手続きをしないで済みます。
その意味で、以下の説明は実際的な役に立つものとは言えないでしょうが、「フィラリア予防薬の個人輸入は危険だ」というのに次いで「違法だ」と書いてあるサイトもたくさんあります。
他のページで縷々申し上げているように、日本でのフィラリア予防薬は動物病院での価格が下がるか、処方薬を一般薬に指定変えするかしなければ、価格がネックになってその普及に多くは期待できません。海外からフェアな価格のフィラリア予防薬が供給されるようになったことは、飼い主さんに、そして何より予防をしてもらえる犬達にとって現段階では大きな追い風になっています。
それにしても、「海外からの購入は違法だ」と脅かされて、疚しく感じる飼い主さんがいたら残念なことです。
このページでは飼い主さんが安心してフィラリア予防薬を海外から買えるように、違法だという話は単なるデマに過ぎないことを詳細に説明させてもらっています。




個人輸入にあたって薬監証明を受けなければならないのはフィラリア予防薬など日本で処方薬に指定されているものだけではありません。
ごく普通に使われている家庭用医薬品(一般薬)としてフロントラインを例にして話を進めますが、フロントライン1箱を個人的に輸入しようとしても農水省で薬監証明を発行してもらわなければなりません。
フィラリア予防薬の通関に伴う説明の前に、まず一般薬であるフロントラインが受ける規制内容を説明させていただきます。 処方薬への規制は一般薬への規制にさらに上乗せされるものだからです。
個人輸入にかかわる規制の中には、当該の薬品が獣医師の処方を必要としない一般薬であっても、BSE(狂牛病)予防法にもとづいて、反芻動物由来の肉などを原材料に使っていないことを証明する書類を提出しなければならないという条項があります。
この書類にはメーカーの責任者(つまりフロントラインの製造業者であるメリアル社の代表かそれに準じる人間)の自筆のサインを付さなければならず、コピーは不可で、しかもその薬品がメーカーの出荷後1ヶ月以内のものでなければなりません。
「同じものが日本で販売されているではないか?」とか「それには反芻動物由来の原材料不使用と書いてあるではないか」、「店頭に並んでいるものを購入したらメーカーの出荷後1ヶ月以上経っているのは普通ではないか?」などと言っても無意味です。
「フロントラインには反芻動物由来の原材料」が含まれていないことなどは、農水省でも先刻承知していることです。
消費者は、同じフロントラインであっても動物病院と海外業者では価格が大きく違うので、わざわざ海外から取り寄せるのですから、そんな書類を揃える手間をかけたら引き合いません。

本来、この規制の趣旨は「畜産動物(産業用動物)に与える飼料や医薬品」に反芻動物由来の原材料」が含まれることを防ぐためのものです。
(畜産動物用の医薬品の個人輸入は禁止されており、農水の考え方では「愛玩動物用医薬品」の個人輸入はいわば例外扱いです。)
畜産を営む自営業者が、飼料や医薬品を個人的に輸入して畜産動物に与えることで狂牛病が侵入し、潜伏期間中の動物を屠殺して食用に供してしまうと、国の管理が及ばない中で人間がBSE感染する可能性がないわけではありません。
その時に、食用に供さないものとして例外的に認められている愛玩動物のための医薬品個人輸入が抜け穴になってはいけないので、監督官庁としては輸入されるものが個人使用目的であることを確認しなければならないということでしょう。
しかし、輸入確認と称して、一般の個人には用意できない書類を提出しなければ輸入させないというのでは、一定の条件で認められている個人輸入の権利を、規制の運用面でないがしろにして事実上禁止していることであり、法に準じて職務を行うべき行政機関がやることには疑問が残ります。
もちろん、そんなことは通関検査にあたる職員の人達も知っています。
フィラリア予防薬などは牛や豚に使わないのですから、規制の文面に「愛玩動物専用に使用する場合を除く」と書いておけば済んだことのような気がするので、「輸入確認」は、監督官庁が何らかの理由で嫌がらせをしているとも思えますが、現場で業務に当たる人達から見れば、意味のない規制にしたがって業務を行わされるのは迷惑至極な話でしょう。
ですから、通関時に止められることは少ないのですが、確率はゼロではありません。

もともと、反芻動物由来成分が含まれていないフロントラインですが、あの小さな容器で牛についたノミやダニを駆除するとすれば一体何十万円分のフロントラインを輸入しなければならないんだろうと考えてしまいますが、監督官庁の規制はそのようなことをする人がいるという前提で行われているとしか言いようがありません。
何兆円もの補助金を配分しているところでは原価計算という概念がないのではないかと思います。

次にフィラリアの予防薬について見てみましょう。
フィラリア予防薬が処方薬とされ、動物病院からでしか買えないのは日本だけです。
アメリカ・カナダ、スペインも処方薬になっていますが、消費者は動物病院で処方を受けてネットなどで購入することが出来ます。
オーストラリア・ニュージーランド、東南アジア各国などその他の国では処方薬ではなく家庭薬(一般薬・OTC医薬品)に指定されていますが、中でも比較的規制の緩やかな国ででは薬局やネットだけでなく、ペット用品店やスーパーでも買うことも出来ます。
海外の個人輸入業者は自分で獣医師資格を持たなくても比較的容易に製品を仕入れることが出来るのは、それらの国では一般薬であり、しかもその国内で販売をしないからです。

日本でも人間用の薬であれば処方薬であっても一定の範囲内で個人輸入が認められているのに、動物薬だけに何故そのような規制があるのか誰もがいぶかることですが、これも今述べたフロントラインの実質的禁止と同じ理由によるものです。
動物薬の所管官庁は農水省ですが、農水の元々の仕事は産業用動物(牛・豚・馬からうなぎや養殖魚まで、愛玩用動物以外すべてと考えてください)が対象であり、これらの動物に使用する医薬品や飼料の個人輸入は原則禁止されています。
個人輸入とは「個人が自己使用目的で、ある商品を輸入すること」です。 したがって、例えば畜産農家が自分の飼育する牛100頭分の医薬品を輸入する場合は、それが個人による輸入行為であり、また、医薬品そのものを販売しなくても、医薬品コストを加えた製品を販売しているものとして業としての輸入と看做されます。
国内の産業用動物の医薬品の使用については、農作物に残留農薬の問題が生じるように残留動物薬の問題が生じます。
つまり、食用動物の治療や予防に使われた薬品が、肉やミルクに残って人の体に入り、人の健康に影響を与えることがあり得るということです。
酪農家などがが海外薬品を個人輸入して使用するようなことが行われると、国の監督が行き届かなくなり、ひいては国民の健康リスクに影響が及ぶ、ということから産業用動物向けの医薬品の個人輸入は禁止されているのはこの理由によります。
(国内で販売されている医薬品でも、その残留を防ぐために産業用動物に投薬をするときには、それぞれの薬によって「休薬期間」というものが設定されており、食肉に出荷する前の一定期間はその薬を与えてはいけないことになっています。
ちなみに、フィラリア予防に使われるイベルメクチンは牛や豚の回虫駆除に広く使われていますが、その休薬期間は投与目的や注射か経口投与かなど投与方法によって違うもののおおむね数週間です。)

それに対して、愛玩動物用医薬品の個人輸入が一定の制限のもとで認められているのは、愛玩動物を食用に供することはないとされるからです。
個人輸入は人間薬同様、輸入者が自己責任で自己使用に供することで認められているものですから、輸入者が全責任を負うものであって、その動物薬がペットにどのような影響を与えるか、安全か危険か、などは農水省の関知するところではありません。

ここまでは、規制の趣旨の原理原則ですから問題はないのですが、実際の運用面ではやはりいろいろな問題が生じます。
個人が海外から輸入してメリットのある動物用医薬品の種類は限られます。
また、海外の友人から送ってもらうことも個人輸入にあたりますが、普通には面識のない業者から購入することが多いでしょうから取引にリスクも付きものです。
それに、郵送に時間もかかりますから急場の手当てには間に合いません。
そして、愛玩動物に与える薬の7割、8割までは人畜共通薬ですから、多くの場合、例えば消毒薬などは国内の薬局で用が足ります。
また、治療薬の場合には急を要することも、また獣医師の診断を必要とすることも多く、これも個人輸入には不向きです。
結局、個人が海外から購入してメリットがあるのは、内外格差が猛烈にあるフィラリア予防薬やノミダニ駆除薬に限定されてしまいます。
これらの製品は急がなくても季節に間に合えばいいこと、一定の条件を満たせば素人が与えても安全であること(動物病院業界では危険だと言っていますが)、そして経済的に大きなメリットがあるからです。

ところが、このサイトでは再三触れているように、日本ではフィラリア予防薬は要指示薬(処方薬)に指定されています。
そして、処方薬の個人輸入には獣医師の処方箋が必要です。
そこに絡む業界権益のことは別にして、処方薬に指定されているのは表面的には「素人が使うと危険だから」ということですが、処方薬の個人輸入には獣医師の処方箋が必要だ、というのは別にそれが危険だからというのが理由ではありません。
先ほど申し上げたように、個人が自己責任で自分の犬にフィラリア予防薬を与えて、万一何があっても農水省の関知するところではない(農水省には他人の犬の安全について世話を焼く権利も義務もない)からです。
現に、同じ考え方から人間用の処方医薬品の個人輸入は、別に医師の処方箋がなくても一定の量的制限のもとに認められています。
農水省が獣医師の処方箋を要求するのはフィラリア予防薬に限ったことではなく、動物用処方薬全般についてであって、(先ほどの理由によって)他の産業用動物に転用されることのないよう確認するために獣医師の処方箋の提出が必要だということであり、獣医師を個人輸入薬品の使い道についていわば保証人にするということです。
規制の条文はフィラリア予防薬の狙い撃ちにしたものではありませんし、そもそもこの規制が出来たのはインターネットも普及しておらず、フィラリア予防薬の個人輸入なども想定されていなかった時代のものです。
ネットの時代になって海外からの個人輸入も広がりましたが、こと動物薬に関しては個人輸入してメリットのあるものはフィラリア予防薬とノミダニ駆除薬ですから、規制自体が結果としてフィラリア予防薬などの個人輸入規制を目的とするような形になってしまいました。

これも、別のページで触れましたが、フィラリア予防薬に使うイベルメクチンは牛や豚の回虫などの駆除にも使いますし、疥癬治療を目的とするヒト用医薬品としても承認されています。
こう言うと、フィラリア予防薬を他の産業用動物に転用されることもありそうですが、実際には使用量がまったく違います。
フィラリア予防に使うイベルメクチンは体重50kgの超大型犬でも月に一回300μg(0.3mg)程度です。
豚の場合には注射液もありますが、比較するために飼料に混ぜて使うタイプ(アイボメック・プレミックス)で計算すると、使用量の目安は体重1kgあたり100μgを1週間継続投与(700μg=0.7g)ですから、超大型犬と同じ体重50kgの子豚がいたとして実に35rのイベルメクチンが必要です。
豚は当然多頭飼育ですから販売単位も一頭分ではありませんが、イベルメクチン(アイボメック・プレミックス)は一袋に2000r入っています。
これは超大型犬用フィラリア予防薬6,600錠分=1100箱分です。
もし、1箱\2,000のフィラリア予防薬を買うとしても、\2,200,000になります。
ですから、税関で「フィラリア予防薬が無制限に個人輸入されると他の産業動物に使われる可能性があるので、獣医師の処方箋が必要だ」というのが、如何に現実離れしているかお分かりいただけると思います。
アイボメック・プレミックス
その上に、日本では動物病院イコール動物用医薬品薬局ですから、日常処方薬を使うときには「自分で自分に宛てて処方箋を書く」ことになります。処方薬の使用には処方記録と在庫表を残さなければならないことになっていますが、一々、一枚一枚、自分に宛てて処方箋を書くなど面倒なことをする動物病院はありません。現実問題としてペット向けの動物病院では処方箋のフォームを用意していないところもあるようです。

海外と日本の動物病院とのフィラリア予防薬価格差が消費者にとってどういう意味があるかも、国内で購入しようにも近所に動物病院のない地域に住んでいる人への配慮も、農水省の関心外です。
これは厚生省(当時)の話ですが、阪神淡路大震災の時に、狂犬病予防注射の証明がないといって、スイス隊の連れてきた救助犬が検疫で足止めされたことがあります。
この場合、救助犬を足止めして利益になる業界は存在しませんから、そのことで被災者の命が助かろうが助かるまい、世界の笑い者になろうとなるまいと、担当者は自分の職責に忠実に規則に従って足止めしただけでしょうが、農水省の場合には海外からの個人輸入が広まると困る業界が農水省の管轄下にあるのですから、多少は色眼鏡で見たくなります。
※阪神淡路大震災の時には結局狂犬病予防ワクチンを入管で接種したうえで特例として持込が認められましたが、災害時の人命救助成否の分岐点とされる72時間には間に合いませんでした。
後日、「救助犬の通関の遅れは入管のせいではない」という説明がどこかに書かれていましたが、詳細は知りません。




ここまでの話の要点:
@ 税関でフィラリア予防薬やノミダニ駆除薬が通関を保留されることがあるのは、その製品が危ないからではない。
保留を解除してもらって輸入をするために必要な書類は、本来「愛玩動物に使用すると偽って産業動物に与えられる」ことのないよう「個人使用であることを確認」するものである。
A 個人が自己使用目的で、かつ自己責任で使用するフィラリア予防薬やノミダニ駆除薬を個人輸入することは国民の権利であって、輸入する側には何の違法性もない。
自己責任で行われる個人輸入に獣医師の処方箋が必要だというのは、規制の趣旨や目的を逸脱している。
自己責任ということは極端に言えば輸入した医薬品で飼い犬が死亡しても 仕方ないということであって、わざわざ農水省が心配してくれることではない。
B 動物病院はフィラリア予防薬の独占的販売業者であって、ヒト用処方薬のように医薬分業されていないから、処方箋を書くこと=販売でしかない。
個人輸入したい人に処方箋を書く動物病院はないし、あったにしても処方箋代を支払うのであれば手間と費用の点で個人輸入のメリットがなくなってしまう。

さらに、海外製品は未承認医薬品である、ということがあります。
海外製品が未承認であることはそのまま事実です。
日本での承認を申請していないものは、すべて「未承認」医薬品とされるからです。
したがって、フロントラインであれ、ハートガード(日本名カルドメック)のように、同列企業の同一製品(成分や含有量がまったく同じ)でも、製造者が日本での販売を申請し承認を受けなければ未承認医薬品になります。
モキシデックに到っては、海外から錠剤をバルクで輸入し、日本国内で小分けと包装を行っているだけです。
これらの製品のメーカーは世界企業であり、各国にグループ企業を抱えていますが、日本にも子会社があって自社製品を販売しているのですから、海外から承認を申請する必然性はまったくありません。
つまり、未承認であることと薬の安全性とは直接的な関係はない、ということです。
それを白タクや無免許運転のようなイメージで恣意的に語っているサイトがあるのは、利害関係者のものでしょう。


余談として・・「フロントラインの規制がいかに現実離れしているか」
BSE(狂牛病)の原因はプリオンと呼ばれる蛋白質であることは分かっているが、そもそもフロントラインにはいかなる形の蛋白質も含まれていない。 このことは日本製のフロントラインで明白に分かっているし、もし海外製の成分が違うかもしれないということであれば、蛋白質の検出検査をすれば済むだけの話である。(蛋白質検出キットは小学生の実験用に販売されている。)

そもそも、オーストラリア製フロントラインは「BSE清浄国」からの輸入であり、日本はBSEが発生した汚染国であったことがある。
オーストラリアが日本製フロントラインの輸入を規制するのならまだ分かるが、これでは話があべこべである。

そもそもBSEはプリオンを摂取する(口に入れる)ことで感染することが分かっている。フロントラインを犬に
飲ませる個人輸入者がいるだろうか?

そもそも英国では100万頭以上の牛や羊がBSE感染をしたというのに、家庭犬はもちろん、いつも牛や羊の傍にいる牧用犬がBSE感染をしたという報告もない。(飼い主さんと同じものを食べていた猫が飼い主さん共々発症してしまった例はある。)

それでも危険があるというのであれば、危険性の根拠を示して輸入を禁止すべきである。
書類の内容によってBSE感染の可能性が左右されるものではない。