? フィラリアとはどんな虫か
フィラリア(犬糸状虫)はご存知のように、その成虫は犬の肺動脈に寄生し、数が多い場合には心臓(右心室=肺動脈と
つながっている)に寄生する体調 20?〜30cmの白い「そうめん」を思わせる虫で、回虫などと同じ線虫の仲間に属します。
下記の動画を見ていただければ、フィラリアがどんな寄生虫かイメージを持っていただけると思います。



Youtubeの動画でフィラリアの成虫を検索してみました(keyword=heartworm caval syndrome)
重症感染(caval syndrome)の犬の頸静脈から多数の成虫を取り出している動画です
普通はalligator forcepsと呼ばれる特殊なピンセットを使って行われますが、この動画はheartworm extraction brushという、やはり特殊なブラシを使った方法です。
死亡した直後の犬の心臓を解剖したものです(keyword=heartworm dirophilaria)。
成虫がまだ蠢いています。
Youtubeの動画でフィラリアの成虫を検索してみました。(keyword=canine heartworm microfilaria)
後で詳しく説明しますが、ここで見えるのは体内で生まれたものではなく蚊に移されてから成長した幼虫です
成虫が産んだミクロフィラリアの画像を探してみました。
犬の血液中からミクロフィラリアを見つけるKnott式検査法のページの中に 顕微鏡画像があります。

Reference:  Bowman DD, Lynn RC, and Eberhard ML: Georgi痴 Parasitology for Veterinarians 8thedition, Saunders, Philadelphia, 2003, p. 311

ミクロフィラリアの顕微鏡写真 (×40) 出典




?-1 フィラリア感染とは何か?

よく知られているようにフィラリアは「寄生虫」であり「細菌感染」、「ウィルス感染」などとは根本的に違います。
体内で成虫の数が自然に増えるということは絶対にありません。
(数が増えるのは成虫が産み落とすミクロフィラリアだけであって、これは犬の健康に何の害も及ぼしません。)
次の章でフィラリア虫の生活環に触れますが、ミクロフィラリアは蚊に吸血されて一旦犬の体外に出ないと、成長段階を踏むことができず、そのまま犬の体内で死滅してしまいます。
犬の健康を深刻に害するのは成虫だけであり、しかもそれが多数寄生している時だけです。
したがって、一口に「フィラリア感染」という言葉を使っても、蚊から感染しても成虫に達しておらず抗原検査などでも発見できない
6〜7ヶ月間の無症状段階、フィラリア成虫が数匹しかいない軽感染と数十匹、時には百匹を超えるような数の成虫が寄生している重感染まで幅が広く、その違いを区別して考える必要があります。



?-2 フィラリア感染の症状
フィラリアは犬にとって最も恐ろしい病気ですが、その感染の特徴は、寄生されてもすぐに症状が現れないことです。
特に、高齢になった犬のフィラリア症状は一般的な老化として見過ごされることも多く、飼い主さんが気づいた時には既に深刻化してしまっていることも珍しくありません。
犬は蚊から移されたフィラリア幼虫を自分の免疫力で排除することが出来ません。
また、フィラリアを媒介する蚊に刺されないようにも出来ません。 ですから、愛犬がフィラリアに侵されるのを防ぐには飼い主さんが手を貸してあげる必要があります。
一方で、月に一度きちんと飲ませてあげるだけで完璧に感染を予防できる予防薬が既に開発されている病気でもあります。
それなのに、フィラリアはなくならないばかりか、今でも数多くの犬(一説には関東地域の未予防犬の80%という話もあります。)がフィラリアで苦しんでいる現状があります。
これは日本の犬達にとっては非常に深刻な問題です
予防を怠たることで、毎年のように蚊による感染を許したまま数年が経過すると、成虫が肺動脈に多数棲息するようになり、慢性のフィラリア症状を呈するようになります。
また、それらの成虫が何かのきっかけで心臓、さらには大静脈にまで移動することで、心臓冠動脈の血流の梗塞症状を起こし、最悪の場合は死に至るようになります。
これが先ほど紹介した動画サイトにある「ケイバル症候群(大静脈症候群)、ベナケイバル症候群」(後大静脈症候群)です。
また、フィラリア成虫の駆除薬を使い、成虫が一時に死滅したりすると死骸が肺動脈の奥まで流されて細い血管を塞ぎ重篤な症状を引き起こすこともあるそうです。

(よく誤解されることですがフィラリア予防薬は成虫を殺すことはなく、成虫駆除薬(注射)とはまったく別のものです。下記のサイトは一例にすぎませんが、成虫駆除薬の副作用リスクを予防薬投与リスクに意識的・無意識的に混同させているサイトが多くみられます。)
まともな獣医さんならこんなことは言いません。goo.ペット
急性症状が見られなくても、肺動脈で自然死した成虫の死骸から溶け出る体液が肺動脈壁面の炎症を招いて肺血栓の原因に
なったり、慢性の肺高血圧症になることも指摘されています。
フィラリア成虫という大きな寄生虫が肺動脈や心臓に棲みつくことは、血管の硬化や高血圧を招くだけでなく、直接的な被害に移る移行期として心臓機能の低下による生活レベルの低下(空咳や息切れ、運動障害など)、さらに肺水腫、腹水、腎臓や肝臓への悪影響を引き起こします。
これらの症状は、フィラリア成虫が寄生している犬では多かれ少なかれ見られるものであり、もちろん時間の経過によって悪化する一方になります。
フィラリアの寄生が寄生場所から遠く離れた臓器に影響するメカニズムについては、ほとんどのフィラリア成虫の体内に寄生するボルバキアという細菌が関与しているとされています。(後述)



体内に成虫が産んだ幼虫(ミクロフィラリアL1)がいる環境下で、フィラリア予防薬を与えると血液中の幼虫を急激に殺してしまい、その死骸が肺の毛細血管を塞いでしまって酸素交換を阻害し、死に到る可能性があるという話も一般に流布しています。
しかし、フィラリア予防薬のミクロフィラリアに対する作用は緩慢であるか、無作用であって、死亡した(あるいは死亡しつつある)ミクロフィラリアが成虫に何らかの影響を及ぼして、ケイバル症候群の引き金になることはあり得ても、ミクロフィラリアの死滅によって酸素交換が出来なくなるという話は海外サイトには見当たりません。(自然死するミクロフィラリアは食細胞によって処理されるのでこのような事象は普通起こらず、犬の健康にも影響を及ぼさない)
成虫が肺動脈から心臓とその先の後大静脈に移動しなければケイバル症候群は起こりませんが、移動のきっかけとして挙げられている理由は、急激な運動や興奮、成虫の死骸が原因で出来た血栓による肺動脈の狭窄や血流の低下、βブロッカーの投与や麻酔などであり、その他、肺や心臓に何らかの影響を及ぼすことはすべてきっかけになり得るといえます。
つまり、駱駝の背に藁(わら)を少しずつ積んでいくと、最後の一本は軽くても駱駝が耐えられなくなって膝を折ってしまう、という話と同じで最終的には軽微なきっかけでも急性発症は起こり得るということでしょう。
(だからこそ、予防をしてもらっていない無数の犬がこの症状で死亡しています。予防していない犬が薬のせいで発症することはあり得ません。)
日本では「ミクロフィラリアの急激な死滅と急性症状との関連が、動物病院で事前検査をしてからフィラリア予防薬を与えないと危険だ」ということで処方薬に指定される表向きの根拠になっていますが、ミクロフィラリアを急速に死滅させるのはミルベマイシン系の予防薬だけで、モキシデクチンはミクロフィラリアを殺しません。イベルメクチンのミクロフィラリアへの作用は弱く徐々に数を減らすのに向いています。
したがって、個人輸入で利用される予防薬はモクシデクチンかイベルメクチンが圧倒的に多数で、ミルベマイシンは敬遠されているようです。

現在使用されている月一度投与すればよいタイプのフィラリア予防薬は1986年に世界に先駆けて日本で承認されましたが、その頃の犬の平均寿命は8才に達していませんでした。
25年後の現在の平均寿命は14才に達しようという勢いです。その間に、「番犬」のような使役動物から、犬も大事な家族一員として扱うという飼い主さんの飼育意識の変化が、ペットフードとフィラリア予防薬を普及させ、そのことが犬の平均寿命を大きく伸ばしたと考えられています。
また、フィラリア症は中〜大型犬に比較的多く、小型犬には少ないとされています。これは明らかに室内飼育されている犬の方が蚊に刺される機会がより少ないということだと思われます。




軽度感染の症状
イメージとしては概ね数匹の成虫が棲みつき、2〜3年といったところでしょうか。
犬に現れる症状はほとんどなく、あったとしてもこの段階で飼育経験の少ない飼い主さんが異常に気づき、原因がフィラリアであることを推測できるケースは稀で、多くは動物病院で発見されます。
感染が症状として表れる進行速度は犬の年令・体力・他の病気の有無などと共に体内にいる成虫の数によって大きく左右されますが、蚊から感染しても成虫になるまでの半年間は無害だとされているので、症状が出るとしても、その年の冬以降になります。
犬の異常が顕著になるまでに、一般的にはフィラリアに寄生された後、数年という長い時間がかかります。
その間犬は年をとりますから、徐々にフィラリア症状が出ても、加齢による体力低下などと区別がつきづらいことで駆除治療を後手に回してしまい、犬の寿命を縮めてしまう一つの理由になっています。
仔犬の時からフィラリア予防をしておけば絶対にこんなことはないのですが、何かの事情で成犬を引き取ったような時には、それまで予防をしていたかどうか分からないのが普通でしょう。
このような場合には、念のためにフィラリア感染の有無を検査することが役に立ちます。
何回も繰り返すように、フィラリアの健康への影響は寄生虫の数が少なければ軽微であり、症状の進行も緩慢です。また、新しく寄生虫の数が増えなければ、成虫は寿命を迎えて死滅してしまいます。つまり、その犬はフィラリアから解放されます。
しかし、「軽度の感染」ということは「軽視してもよい感染」ということではありません。
長さが30cm近くにも達する成虫に寄生されることは、犬の肺動脈や心臓にとって大変な環境破壊です。
これだけの大きな虫がいて新陳代謝をするのですから、たとえ少数であっても、また症状が表面化していなくても、肺動脈壁はその分泌物などによって炎症を起こしたり、カルシウムが沈着したりして脈壁硬化の原因になっているはずです。
動脈硬化はヒトにもよく見られる健康障害ですが、犬の場合には成虫の棲む部分が集中する肺や心臓に硬化を起こすようです。
動脈硬化などの障害は不可逆的に進行しますから、成虫がいなくなっても回復することはなく、一生を引きずる慢性症状になってしまいます。

中度感染の症状
これもイメージとして、十数匹の成虫がいて3〜4年経っている、そして時折カラ咳が見られるというところでしょうか。
犬の年齢も当然3,4歳以上になります。咳が出る、元気がなくなった、といった症状はフィラリア寄生によってもたらされる症状ですが、他の原因によっても見られるものであり、実際に遺伝や他の病気によって複合的な症状を示すこともあります。
動物病院での早めの確定診断が必要です。

重度感染の症状
重度の感染とは、フィラリア予防をしてもらえない犬が毎年毎年蚊に刺されることで、新しい寄生虫の数を積み重ねている状態です。
重度の感染になれば、中程度の感染で見られた症状がどんどん深刻化することはまず当然ですが、それ以外に、大静脈症候群など重度感染犬にしか見られない症状が表れます。
成虫の数や寄生期間、犬の年令などが密接に関係するにもかかわらず、、このような症状を呈する犬には個体差があるようです。


染の進行度と典型的な症状(全米フィラリア協会による)
感染進行度 典型的な症状
初期感染Early Infection Class 1 無症状(血管)
軽感染Mild Desease Class 1 せき
中度感染 Moderate Deasease Class 2 せき、運動不耐性、肺音の異常
重度感染Severe Desease Class 3 せき、運動不耐性、肺音の異常、呼吸困難、心音の異常、肝臓の肥大syncope(脳への血流不足
から来る一時的な意識喪失)、腹水、死亡
大静脈症候群 Caval Syndrome Class 4 せき、運動不耐性、肺音の異常、呼吸困難、心音の異常、肝臓の肥大、syncope(脳への血流不足から来る一時的な意識喪失)、腹水、血色素尿を伴う突然の昏睡または無気力、死亡
血色素尿hemoglobinemia,hemoglobinuria=赤血球が血管内で異常に多く破壊されて、血液中に多量の血色素が遊離し、腎臓での再吸収が十分行われないで尿中に排泄される状態。



<ボルバキア>
Association of Wolbachia with heartworm disease in cats and dogs.
前述のように、フィラリアの間接的な害は、成虫が棲む肺動脈や心臓だけでなく、長い間には肝臓や腎臓にまで及びます。
これは一つには心臓に成虫が棲みつくことによって血流が不足するためだという説明がされることがありますが、むしろ成虫に内部寄生しているボルバキアという細菌(リケッチアの一種)が成虫の自然死後に血中に流出することが、肺動脈に炎症を起こす原因になるだけでなく、これらの臓器の異変に密接に関与していると考えられています。
ボルバキアは成虫からミクロフィラリアに垂直感染(母子感染)し、ほとんどの成虫にいるそうです。
この細菌には抗生物質(ドキシサイクリン=ジスロマックなど)が有効であり、成虫のいる犬には新しい感染を防ぐ予防薬との併用が推奨されています。
ジスロマックには、イベルメクチンと同じように♀成虫の出産能力を阻害するという報告もあります。もしそうであれば、ボルバキアが♀成虫の出産システムに何らかの関与をしていることが考えられます。
アメリカ食品医薬品局Wolbachia and Heartworms

Wikipedia(日文)フィラリアとボルバキア
フィラリア線虫は寄生性の線虫であり、回旋糸状虫症の原因となり、ヒトに象皮病(象皮症)を引き起こすだけでなく、イヌの心臓にも寄生し重篤な症状を引き起こす。ボルバキアは、これらの病気において特殊な役割を担っているようである。フィラリア線虫の寄生性の大部分はボルバキアに対する宿主の免疫応答に依存している。フィラリア線虫からボルバキアを除去することにより、ほとんどの場合、フィラリアは死亡するか生殖不能となる。[11]従って、フィラリア線虫感染症をコントロールするための現在の戦略は、毒性の強い抗線虫薬剤の使用よりも、テトラサイクリン系の抗生物質ドキシサイクリンなど)の投与によるボルバキアの除去が中心となっている。[12][13] 獣医療でもイヌ心臓に寄生したフィラリアの駆除の際、前記抗生物質が併用される。 前記抗生物質のみで心臓内のフィラリア虫体を完全に駆除することは困難だが、 抗線虫剤による駆除の結果フィラリア虫体から放出されるボルバキア菌体成分に対する過剰な 免疫反応を抑制することを目的として、抗線虫剤の投与に先立って処方される。


フィラリアの生活環
フィラリアがどのように生まれ、移動しながら成長して、成虫になるか、その生活環を知っておくことはフィラリアを予防しようという飼主さんにとっては大切なことです。
フィラリア予防薬はフィラリア幼虫の生活環に対応して作られているからです。 次のページではフィラリアの生活環について説明します。
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